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大阪高等裁判所 昭和63年(行コ)39号 判決

京都市左京区一乗寺青城町三八の二

控訴人

堀江貞義

右訴訟代理人弁護士

村山晃

荒川英幸

京都市左京区聖護院円頓美町一八

被控訴人

左京税務署長

井上睦美

右指定代理人

石田浩二

国府寺弘祥

中島孝一

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し昭和五九年三月五日付でなした

(一) 昭和五六年分(以下、昭和五七年分と併せて「本件係争年分」という)所得税の総所得金額を一八二万八二三三円と更正した処分(以下、昭和五七年分と併せて「本件処分」という)のうち一五六万七八一八円を超える部分

(二) 昭和五七年分所得税の総所得金額を五八〇万〇一二二円と更正した処分のうち二〇八万六五〇〇円を超える部分はいずれも取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二当事者の主張及び証拠関係

次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示及び当審記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する(ただし、原判決六枚目表四行目の「事務」の次に「局」を加える)。

一  控訴人

1  税務調査に当たり第三者の立会を許可するか否かが調査担当者の裁量によるとするのは国民主権に基づく申告納税制度の根幹を没却するものであり、調査目的、内容は納税者に納得の行くように説明されるべきだし、合理的な理由もなく立会を拒否することも許されない。本件において控訴人は調査を円滑に進めるためにこそ民商事務局員の立会を求めたのであって、調査担当者が立会拒否の理由とした「守秘義務」は何ら根拠はなく、結局被控訴人は合理的理由なく第三者の立会を拒否し、かつ調査をしなかったのであり、その違法であることは明らかである。

2  推計課税の基準とする同業者の業態の類似性は具体的な営業形態に基づいて判断されるべきであるが、本件においては、原判決も指摘しているとおり、昭和五六年度分に類似性のない特異な四業者が含まれており、このような業者が抽出されていること自体、右基準の不合理性をよく示しているといえる。

3  控訴人は、外注費を含む経費の立証として、収支日計式簡易帳簿を提出しているが(ただし、昭和五六年度分は年度途中まで共同経営であったため、不十分なものしかなく未提出)、これ以上確実な証拠はないはずである。すなわち、右帳簿と申告額には多少の差があり、また右帳簿において雑費等は概数で記帳され、集計額の記載もないが、このような事実こそ右帳簿が本訴のために作成されたものでないことをよく表している。なお、作業日誌は備忘録的なものであり、領収証や帳簿に比し不完全なものであるため、原審ではあえて提出しなかったのである。また、控訴人は減価償却や地代家賃の立証もしており、これらは所得から控除されるべきである(甲第二九号証の二、三、第三六号証第三八号証の一、二、第四五号証の二三、二四、同号証の三〇、第四七号証参照)。

二  被控訴人

1  税務調査担当者の質問調査権の行使の範囲、程度、方法、時期、場所等については、調査の目的から合理的範囲内のものである限り、担当者の裁量に委ねられているのであり、したがって、第三者の立会の可否もその裁量の範囲に属する事項であり、本件において、被控訴人の部下職員が右裁量の逸脱、濫用をしたと認められる事情はなく、これにつき違法性はない。

控訴人は第三者立会を排除するようにとの調査担当者の説得に対し、一度、しかもごく僅かの時間だけこれに従ったにすぎず、到底調査に協力したとはいえない。

2  推計課税の基準となる同業者率は、同業者に個々的な差異のあることを前提とした上で、一応の基準のもとに比較的類似していると認められる同業者の一群を抽出し、これから算出した同業者率に推計基準としての合理性を認めようとするものである。したがって、納税者側の営業条件はそれが当該平均値による推計を根本的に不当ならしめるほどに顕著なものでない限りこれをしんしゃくすることを要せず、平均値算出課程において捨象される性質のものというべきである。原審でも主張したとおり、本件において、被控訴人が選定した同業者は数も客観性、普遍性を認めるに足りる程度に多数であり、かつ業種、業態、事業所、事業規模の点においても控訴人と類似性を有する業者といえるものであり、その推計の方法に合理性を有することは明白である。

3  実額反証を主張する納税者は単にその主張する収入及び経費の各金額を証明するだけでなく、真実の所得額、すなわち、その主張する収入がすべての取引先からのものであること及びその主張する経費がその収入と対応するものであることをも証明しなければならない。

本件において、控訴人は当審になって初めて甲第五三ないし第五七号証を提出しているが、これらの書類は原審において裁判所の提出勧告にも関わらずこれに応じなかったものであり、国税通則法一一六条の改正趣旨からみても、これらは時機に後れた攻撃防禦方法であることは明らかであり、またその提出のいきさつやその内容を検討すれば明らかなように(被控訴人第二準備書面参照)、矛盾も多く、到底信ずるに足りるものではない。

理由

一  当裁判所の判断は、次に付加、訂正、削除するほかは原判決の理由と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決九枚目裏四行目及び一〇枚目表七行目の「事務」の次に「局」を、九枚目裏四行目の「英夫」の次に「(以下「近藤」という)」を、同末行の「及び」の次に原審及び当審における」をそれぞれ加え、一〇枚目表七行目の「英夫」を削り、一一枚目表四行目の「原告は」の次に「原審及び当審における」を、一三枚目表三行目の冒頭に「原審における」を、一四枚目裏二行目の「1」の次に「、2」を、一七枚目表四行目の「原告は」及び同末行の「原告は、」の次に「原審における」を、同五行目の「金額が」の次に「前記」を、一八枚目裏六行目の「他方、」の次に「原審における」をそれぞれ加え、一九枚目表一行目の「当裁判所」を「原審裁判所」と改める。

2  原判決一九枚目表五行目冒頭から同七行目末尾までを「控訴人は、当審において、昭和五七年度の売上額を立証するために請求書、領収証、更には問題の作業日誌(甲第五三ないし第五七号証)を提出している。しかし、これらの書証は控訴人にとってその主張を裏付けるための重要な証拠であるばかりでなく、もし原審当時からこれらが存在していたとすれば、右のとおり原審裁判所の提出勧告も受けていたのであるから、当然、原審においてこれらを提出していたと考えられるのであるが、当審における控訴人の供述によっても、原審でこれらを提出しなかった理由は判然としないのであり(控訴人は、提出しなかった理由は別にないとか、帳面はややこしいから提出を控えた等と述べている。このような控訴人の態度は、国税通則法一一六条の趣旨からしても許容されるものとはいいがたい)、また、これらは被控訴人も主張するとおり内容の正確性にも疑問がある上、例えば、外注費についても、甲第一二号証の一ないし三の和久利友治につき、控訴人は、原審では同人と親戚関係はないと明言していたのに、当審における反対尋問に対し、同人は控訴人の姉の子であるが、長年付き合いもなく、そのような間柄の者とは知らなかったところ、紹介者があり偶然関係を持つに至ったものであると原審の供述を訂正するなど、控訴人の供述は額面どおりには信じがたいものがあるといわざるを得ないのであって、少なくとも控訴人主張の外注費、諸経費は、前記控訴人が自認した売上金額に対応するものとは到底認めることができず、また右外注費等に対応した売上の主張立証もないというほかはない。」と改める。

3  原判決一九枚目裏三行目冒頭から同九行目末尾までを「減価償却費についての控訴人の主張は、工具類と自動車に関するものであって、右特別経費には当たらず、また地代家賃についても、仮にこれが控訴人主張のとおりに所得から控除すべきものとしてみても、原判決添付別表6から右金額を差し引いた残額はいまだ本件処分により更正された総所得金額を超えている。」改める。

二  以上の次第であって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 福富昌昭 裁判官 松山恒昭)

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